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ソリューション情報
製造業の経営革新を実現するPLMの展望
Prospect of PLM for Improved Management of Manufacturing Industries
根本 弘幸   Hiroyuki Nemoto   南 俊介   Shunsuke Minami   時末 裕充   Hiromitsu Tokisue
赤坂 信悟   Shingo Akasaka 谷口洋司   Yoji Taniguchi      

 

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製造業の経営革新を実現するPLM要件と実施課題
製造業では,環境変化に打ち勝つ経営革新を実現するため,経営視点に加え,顧客視点,社会視点のバランスを兼ね備えたPLM(Product Lifecycle Management)が求められている。

わが国の製造業を取り巻く環境が厳しさを増す中で,企業には,売れる製品を早期に見極めて迅速に市場投入を図る開発期間短縮だけでなく,環境法規制などに対応した製造者のアカウンタビリティ(説明責任)への備えや,販売後のサービスまでを含めた業務全体での収益確保が急務になっている。そのためには,製品の企画・開発から製造・販売,保守・廃棄に至る全段階での製品情報管理を徹底し,ライフサイクル全体における収益の最大化,安全・安心の提供,および継続的なCS向上を図るPLM(Product LifecycleManagement)が必要となる。
日立グループは,みずからが製造業としてPLM構築に取り組んでおり,その中で培ったノウハウやITを活用したPLMソリューションを提案している。

 

1.はじめに
製造業を取り巻くビジネス環境は,年々厳しさを増している。顧客ニーズの多様化や製品ライフサイクルの短期化が進む一方,グローバルな競争社会の到来により,品質・価格競争が激化している。さらに,EU(欧州連合)をはじめとする国際社会では環境規制の強化を打ち出しており,環境コンプライアンスへの対応も求められている。
このような背景の下で,SCM(Supply Chain Management)やCRM(Customer Relationship Management)といった経営改革手法の必要性が説かれ,多くの企業で実際に導入が進んでいる。特に近年は,PLM(Product LifecycleManagement)に対する期待が急速に高まりつつある。
PLMは,一般に,製品のライフサイクル(企画・開発,製造・販売,保守・廃棄・回収)の全段階における製品情報を各業務プロセスで横断的に管理することによって,開発投資効率を飛躍的に向上させ,製品を市場に送り出すまでのリードタイム(TTM:Time to Market)の短縮を実現する経営改革手法とされている。
ここでは,日立製作所と日立グループにおけるPLMへの取り組みの概要と,その展望について述べる。

 

2.日立製作所のPLMの考え方
2.1 PLMのねらいと要件

図1 PLMのねらい説明・拡大
製造業でのTTM短縮は重要なテーマである。しかし,PLMを単に設計プロセスの改革手法,あるいは,そのためのツールととらえるのは早計である。PLMの構築にあたっては,「ライフサイクル」ということばどおり,以下の三つの視点を踏まえて要件をまとめることが大事である(図1参照)。
(1)ある製品を売ったあとの,付加サービスや保守サービスまでも含めた「ビジネスのライフサイクル」全体を常に見渡せるようにすることにより,トータルの収益最大化を図る。
(2)出荷した個々の製品が廃棄,回収されるまでの期間,「個体ライフサイクル」にかかわる法規制や,社会的関心に積極的に対応できるようにすることにより,ブランド価値の向上を図る。
(3)個々の顧客の時間軸(購買ライフサイクル)に合わせた満足度の高い製品・サービスを継続的に提供できるようにすることにより,顧客の獲得と顧客内シェアの向上を図る。

2.2 日立製作所のPLMソリューションの特徴
日立製作所は,上述した要件を満たすために,以下のような構成から成るPLMソリューションを提案している。
(1)フロントローディング技術
開発の進捗(ちょく)とともに発生してくるさまざまな問題を,極力,初期段階で評価し対処することによって新製品の早期立ち上げを図るとともに,コストを大幅に圧縮する技術である。これには,CAE(Computer-Aided Engineering)技術だけでなく,商品企画から実際の生産・販売立ち上げに至る各フェーズに対応し,時間短縮と品質向上を実現する業務アプリケーション技術が含まれる。
(2)ライフサイクルサポート技術
出荷後の製品について,アカウンタビリティ確保と高付加価値サービスの提供を可能とする,個体情報管理技術とアプリケーション技術である。
(3)開発系経営意思決定支援技術
経営資源の選択と集中には,同時進行している複数の新商品開発プロジェクトを効率的に取捨選択することが必要である。また,現行製品のEOL(End of Life)の見極めも重要である。このため,正確かつ迅速な収益情報管理技術が必須となる。
日立製作所のPLMの特徴は,徹底した個体情報管理をベースにしている点にある。製品ごとの部品構成はもちろんのこと,その調達や製造過程から,出荷後の保守来歴,設計情報などを一元管理することができる。(2)で述べた高付加価値のライフサイクルサポートが運用できるだけでなく,実績やその分析結果を(1)のフロントローディングにおける各種モデルにフィードバックすることにより,いっそうの高精度化,精緻(ち)化を進めることができる。また,製品ライフサイクルにおける収益モデルを確立することにより,(3)の経営意思決定の確度を向上させることができる。

 

3.フロントローディング
顧客満足度の高い製品・サービスを継続的に提供するためには,顧客のニーズにマッチした製品仕様を早期に見極め,手戻りなく開発から生産・販売立ち上げを図ることが求められると同時に,品質を高めていくことが不可欠である。過去に日立製作所の量産品事業において製品不具合の事例分析をしたところ,設計時点でフィールド情報を活用すれば防止が可能であったはずのものが50%を占めたという報告がある。
フロントローディングは,常に実績のフィードバックを受けて,業務の品質を向上させる仕組みを内蔵したものでなければならない(図2参照)。


図2 TTM短縮を実現するフロントローディング技術の概要
商品企画や開発などの上流プロセスでは,実績のフィードバックに基づく徹底した仕様検討に加え,生産と販売を垂直に立ち上げるための仕組みが必要である。


3.1 商品企画支援技術
商品企画は,一般に,非定型で属人的な色彩の濃いプロセスであるため,誤りや見落としがあとから発覚することがある。日立製作所は,このプロセスを,(1)ターゲット顧客の絞り込み,(2)VOC(Voice of Customer:顧客の声)分析,(3)品質機能展開,および(4)製品定義ベースオプションの最適化という四つのステップに区分し,おのおのについて進行を明確化して評価を定量化するプロセステンプレートを提供する。また,VOCを反映した製品機能,性能を導出する前提となる製品の個体情報と顧客(個客)のニーズ情報を蓄積,分析し,フィードバックする仕組みを提供する。

3.2 DE援用設計支援技術
製品の機能や性能を決定する開発設計フェーズでは,CAEに代表されるDE(Digital Engineering)技術を用いることにより,業務をスムーズに進めることができる。日立製作所は,(1)CAEによる仮想試作,(2)設計プロセスの標準化による業務誘導,および(3)設計トレーサビリティという三つの技術を融合させることによって,検討,評価,および判断から成るプロセスの円滑な実行と,設計の高品質化を実現する支援システムを提供する。
設計トレーサビリティは,設計過程における参照情報や,デザインレビュー結果,変更来歴といった中間成果物の履歴を記録して設計根拠の明確化を図り,設計プロセスや設計基準,解析ノウハウの適正化を支援するものである。

3.3 設計案の多観点評価技術
設計者は,CAEなどを活用して機能・性能・構造の設計を完了した後に,製造・環境などの各種評価を実施している。そのため,資材部門で部品の調達が間に合わないことがあとで判明したり,品質保証部門で,環境規制への抵触を避けるための部品交換が必要になるなどの問題が発見され,手戻りが発生して,開発遅延やコストの増大を招いている。
そのため,日立製作所は,設計案のBOM( Bill of Materials)をさまざまな観点から総合評価し,その設計案や評価結果を関連部門と共有することで,設計案の改善を事前に行う技術を提供する。
この技術により,例えば,以下のような評価が可能である。
(1)部品のコストなどを考慮した標準化評価
(2)製品含有化学物質の集計などを行う環境影響評価
(3)余剰在庫などのコストを評価する調達性評価
(4)組立性などを評価する生産性評価

3.4 量産垂直立ち上げ支援技術
新製品の生産を計画どおりに立ち上げるためには,設計と生産技術との連携が重要である。特に,半導体や液晶,磁気ディスクなどのいわゆるプロセス品では,量産初期の歩留りをいかに確保するかが収益に直結する。日立製作所は,設計と製造現場が海を隔てているWW(World Wide)環境であっても,現場の問題点を設計に的確にフィードバックし,迅速な対策により,歩留りを垂直立ち上げできるような仕組みを構築している。このような社内実績を踏まえた歩留り解析技術を提供する。

3.5 自動受注設計技術
受注製品では,開発結果である仕様情報を販売プロセスで使えるマスタ形式でリリースして,初めて販売が始まる。このため,このマスタ構築がTTM短縮の重要な要素となる。日立製作所は,案件ごとの仕様選定をガイダンスする販売コンフィギュレータにおける仕様構成管理を設計BOMと一元化することにより,販売の垂直立ち上げを支援する。
コンフィギュレータで選定した正確な仕様データから部品構成が展開できるので,個々の受注製品トレーサビリティの起点となる。

 

4.ライフサイクルサポート技術
環境コンプライアンスに関する規制や社会的関心の高まりに対応し,ブランドを維持,向上するため,企業には,製品の品質向上と,アカウンタビリティが求められている。
その実現には,まず個々の製品に関するトレーサビリティを保証するための情報基盤が必要となる。この基盤を活用することによって製品ライフサイクル全般にわたって,顧客ごとに最適な保守やサービスを提供することができる(図3参照)。


図3 トレーサビリティ管理に基づくライフサイクルサポートの概要

製品の設計・製造過程から販売・保守に至る一連の履歴を一括管理し,個体レベルでのトレーサビリティを実現する情報基盤を基に,アカウンタビリティへの対応,顧客ごとの最適サービスを提供する。


4.1 顧客への安全・安心の提供
環境意識の高まりや法規制の強化に伴い,メーカーは,製品に有害化学物質が含有されていないことを証明する義務を負う,あるいは製品の廃棄時に適切な処理がなされるよう必要な情報を提供するといった形で,顧客や公的機関に対するアカウンタビリティを果たさなければならなくなっている。
また,出荷後に不具合が発生した場合には,リコール(無料の回収・修理)を含めて迅速な対処が不可欠である。不具合が設計や製造に起因するものか,個々の使用条件によるものかを見極め,前者であった場合には,同様の問題を起こす可能性があるのは,ほかのどの納入品かを特定しなければならない。
このように,「安全・安心」を積極的に顧客に提供するためには,個々の納入品について部品構成や製造,保守来歴にかかわる膨大な個体情報を保持し,活用できる技術が求められる。

4.2 「個客」対応の最適サービス・製品の提供
(1)最適保守作業・部品計画
個々の製品を常に最良の状態で顧客に使ってもらうためには,タイミングのよい点検,適切な調整や部品交換が不可欠である。例えば,センサによる24時間365日の遠隔監視でトラブルの予兆や使用状況をとらえ,それぞれに応じた保守作業計画を立案し,交換スケジュールや緊急対応を見込んで,必要な部品を過不足なく準備する。それにより,低コストでSLA(Service Level Agreement)を満たす保守サービスの提供が可能となる。
(2)リニューアル提案技術
顧客の使用状況に応じて,納入品個々に最適な増強提案,あるいはリニューアル提案が可能となる。また,関連する別製品の提供につなげることができる。
このように,個々の顧客ごとに最適な製品やサービスを提供することにより,継続的な関係を維持することができる。

4.3 個体情報管理技術
4.1と4.2で述べたライフサイクルサポートを実現するためには,個々の製品について,調達や製造時はもちろんのこと,出荷後の履歴まで把握することが望ましい。企業には,必要に応じて,型式,製造ロット,製番といったさまざまなレベルで,設計情報,調達情報,工程情報,BOMを連携管理し,保全来歴,稼動状況などもあわせてトレースできる個体情報管理技術が求められる。
日立製作所は,「ミューチップ」などの個体の部品単位まで識別が可能なID管理技術や,個体の状態を監視するセンサネット技術,膨大な個体情報を管理するトレーサビリティデータベース技術,蓄積したデータを活用したさまざまなアプリケーションの構築を実現するためのエンジンとなる高速検索技術などを組み合わせることにより,他に類を見ない個体情報管理基盤を提供する。

 

5.PLMの構築ステップとソリューション展開
5.1 PLM構築ステップの考え方

図4 PLMビジネスシステムの構成
説明・拡大
上述したPLMを構成するビジネスシステムの概要を図4に示す。PLMは単独に存在するのではなく,SCMやCRMと相互連結させることで総合的な効果が上がる。しかし,対象範囲は企業ビジネス全体に及ぶため,すべてを同時に導入,稼動するのは不可能と言ってよい。これを解決するためのアプローチ例として,日立製作所の情報機器事業での構築例を図5に示す。この例を踏まえると,最もスムーズかつ効果の上がる方法は,以下のような堅実なステップを重ねていくというものである。
(1)SCM系生産改革,DE系設計改革などを実施し,設計・生産プロセスの効率化を図ると同時に,各業務プロセスの実績を収集する。
(2)上述の各業務プロセスの実績データの相互関連をとるための仕組み(トレーサビリティデータベース)を構築し,トレースフォワード・バックによる追跡管理を行う。この段階で環境規制などのアカウンタビリティへの対応ができる。
(3)実績データの相互分析,フィードバックに基づくフロントローディングの高度化,ライフサイクルサポートの充実によるCS向上の加速
(4)製品ライフサイクルを通じた損益データを基に損益の評価予測モデルを構築し,開発系経営意思決定(プロジェクトの継続・撤退の論理的判断)を支援する。

図5 日立製作所の量産系事業部における改革ステップ例 (説明・拡大

5.2 ソリューションビジネスの展開
日立製作所は,上述した各ステップに対応した,以下のようなさまざまなソリューションを提供している。
(1)SCM・ロジスティクスソリューション
(2)ERP(Enterprise Resource Planning)ソリューション
(3)設計情報管理ソリューション
(4)デジタルエンジニアリングソリューション
今後は,社内事業所で実践してきた内容を活用し,製品情報のトレーサビリティ管理を実現する「製造業のためのトレーサビリティソリューション」のほか,開発系の経営意思決定を総合的に支援できる「経営コックピットソリューション」を提案していく考えである。
各ソリューションでは,社内事業所に適用する際に用いたテンプレートもあわせて提供できるようにする。「ベストプラクティスフレームワーク」と呼ぶこれらのテンプレートでは,導入計画コンサルティングからアプリケーションソフトウェア群まで一貫して提供できるように体系化していく予定である。

 

6.おわりに
ここでは,製造業を取り巻く環境変化に対応が可能なPLMに関する日立製作所の考え方と,展望について述べた。
経営革新とは,PLMソリューション導入による,開発期間の短縮,アカウンタビリティの確保,アフターサービスの充実などの具体化を通じて,迅速な意思決定と先行的アクションを可能にする恒常的プロセスを構築し,経営リスクの低減を実現することである。
日立製作所は,製造業として培ってきた社内実績を活用し,多様な業種・業態に応じたノウハウや技術を体系化,テンプレート化して整備し,充実したPLMソリューションを提案していく考えである。

 

参考文献 ――――――――――――――――――
1)CIMdataホームページ,http://www.cimdata.com

 

執筆者紹介
根本 弘幸
1985年日立製作所入社,情報・通信グループ産業システム事業部Eco&PLMビジネス推進センタ所属
現在,Eco&PLMビジネスの開発に従事
情報処理学会会員
E-mail:hnemoto@itg.hitachi.co.jp

赤坂 信悟
1986年日立製作所入社,生産技術研究所生産システム第1研究部所属
現在,製造業向けCRM/PLMソリューション技術の研究開発に従事
日本経営工学会会員,精密工学会会員
E-mail:akasaka@perl.hitachi.co.jp

南 俊介
1987年日立製作所入社,日立研究所情報制御第六研究部所属
現在,重電・自動車分野における設計製造支援技術の研究開発に従事
日本機械学会会員,精密工学会会員
E-mail:minami@hrl.hitachi.co.jp

谷口 洋司
1989年日立製作所入社,システム開発研究所第二部所属
現在,製造・流通トレーサビリティシステムにおけるRFID応用技術・個体情報管理技術の研究開発に従事
工学博士
情報処理学会会員,電気学会会員
E-mail:taniguch@sdl.hitachi.co.jp

時末 裕充
1983年日立製作所入社,機械研究所ナレッジエンジニアリング推進プロジェクト所属
現在,解析主導設計とナレッジ蓄積・活用を目指した開発設計支援技術の研究開発に従事
日本機械学会会員,日本応用数理学会会員
E-mail:tokisue@gm.merl.hitachi.co.jp
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